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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(二)

『人外境の花嫁』 

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一.異界の漂泊民(二)

前年にテレビ放送が始まったこの年は、春日八郎の『お富さん』が大ヒットし、戦後の暗い世相もすっかり影を潜めていた。

朝鮮戦争特需で息を吹き返した経済は、劇的な回復の兆しを見せ、国民の生活にも豊かさが戻りつつあった。

足立寛三と川嶋剛志は、横浜の神農会に身を寄せる香具師である。

神農とは、古代中国における伝説上の皇帝で、香具師の祖として守り神にされている。

香具師は、博徒や極道とは異なり、露店でのささやかな商いを生業とする稼業人である。

神農会はその協業組織で、もぐりでない香具師は大概、○○会、○○一家と呼ばれる各地の神農会に所属している。

寛三は二十五歳、剛志は二十二歳。

横浜の愚連隊にいた頃から、二人は仲のいい兄弟分だった。

愚連隊は、戦後混乱期に勃興した不良青少年達の暴力集団である。横浜ではモロッコの辰と呼ばれた出口辰夫や、吉水金吾、林喜一郎らが有名で、一時はヤクザや博徒を凌ぐ力を誇ったが、今はその勢力下に組み込まれつつあった。

寛三と剛志も愚連隊衰退の煽りを受け、昨年横浜の神農会組織である若葉会に草鞋を脱いだのだった。

香具師としての修行を終えた二人は、今年の夏、初めて福岡への稼業の旅に出た。そして九月からは熊本へ移り、人吉市を地盤とする西山一家を頼って、山奥に埋もれた僻村、ここ一木集落の秋祭りへ訪れたのだった。

つづく…

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『人外境の花嫁』 一.異界の漂泊民(一)

         人外境の花嫁

官能小説家、降矢木士朗は語った。
『人類原始の性的乱交は共産主義の出発点なんだよ』
異界の民、乱姦、性宴の邪教、そして驚愕の最終章・・・

満を持して紅殻格子が放つ異色官能小説。
緩み切った官能小説界を戦慄させる本格官能作品です。
最後までお楽しみ下さい。

『人外境の花嫁』 

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一.異界の漂泊民(一)

昭和二十九年。

九州、球磨地方。

空が熟柿色に染まっている。

四方に連なる稜線は漆黒の影となり、山腹の斜面にへばりついた家々が、夜の闇にじわじわと呑み込まれていく。

神楽笛の音が、夕暮れの山峡にもの哀しく木霊する。

山深い僻村の秋祭り。

射的、綿菓子、金魚すくい。

小高い山を背にした神社の境内には、十軒ほどの露店が並んでいた。

客の姿は疎らだった。

ヨーヨー釣りの番をする足立寛三は、夕焼け空を見ながら煙草に火をつけた。

「けっ、しけた山奥の秋祭りじゃ、稼ぎもたかが知れているな」

「本当っすね、兄貴。さっき神主を捕まえて聞いたら、この集落には子供が十人しかいないらしいですよ」

カルメ焼きを売る弟分の川嶋剛志も、退屈そうに大きな欠伸をした。

すると飴細工を拵えていた老人が、ギロリと鋭い目で寛三達を睨みつけた。

若い衆よ、香具師にはな、商いよりも大切にしているものがあるんじゃ」

「・・はあ」

「ここは西山親分の故郷よ。だから儲けがなかろうと、義理を欠かすわけにはいかないんじゃ」

老人は凄みを利かせた表情で、寛三に出来上がったニワトリの飴細工を渡した。

今にも鳴き出さんばかりの見事な細工に、香具師として駆け出しの寛三は、ただ平身低頭して詫びるしかなかった。

つづく…

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再開  紅殻格子のつぶやき(25)

再開  紅殻格子のつぶやき(25)

今日は2018年4月10日(火)です。

ずっと『妄想の座敷牢』は放ったらかしてきたことを深くお詫び申し上げます。

なかなか書く時間がなかったのも事実ですが、書く意欲自体が薄れてしまっていたのも事実です。

今年56歳になります。

もうサラリーマン人生も予備役に入り、四月から仕事の環境も以前より楽になりました。

また家内亡き後の子育てもひと段落して、老境に向けて成すべきことを考える年代に突入しました。

私には小説しかないのだと思います。

もちろん大それたものではありませんが、読者がいる限り書き続けたいと今心揺さぶられています。

しかしすぐには新作を書くのも難しい状況です。

そこでリハビリを兼ねて、掲載削除した『人外境の花嫁』を手直ししながら掲載していこうと思います。

さてさて、どうなりますか?

あの頃に書いたものと今書くものではプロットや結論も変わるかもしれませんね。

是非お楽しみに。



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二十三夜待ち 第二十二章 (最終章)

二十三夜待ち 第二十二章 

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昭和三十二年の春だった。

蕎麦屋の主人夫婦が仲人となって、寛三と小鶴はささやかな結婚式をあげた。

「寛三、いい嫁をもらったな。お前もこれで一人前だ」

蕎麦屋の主人は結婚の餞に暖簾分けを許してくれた。
寛三はこつこつ貯めた金と主人の支援で、横浜の港湾労働者が暮らす街で小さな店を開いた。

僅かに四人がけのテーブル席が五卓あるだけの店だったが、寛三が打つ蕎麦と行商で鍛えた小鶴の接客で繁盛した。

小鶴は幸せだった。
やがて二人の子供を授かり、小鶴はおんぶに抱っこで店へ出て働いた。
寛三は心配してくれたが、小鶴は働いていないとこの幸せが夢になりそうで怖かった。

やがて東京オリンピックを契機に、モータリゼーションと言われる車社会が到来した。
自動車の普及が進み、船や鉄道が主流だった貨物輸送もトラックやダンプへと変わって行った。

小鶴はそこに目をつけた。

自家用車と違って、大型のトラックやダンプの運転手は、昼飯を食べるのにも駐車場探しに苦労する。
そこで街から離れた国道沿いに、大型車用の駐車場を持つ支店を出してみた。

するとこれが大当たりした。
蕎麦以外のメニューも豊富に揃えて店の数を増やし、今では関東圏で百店舗を超える外食チェーンにまで成長していた。

寛三は五年前に鬼籍に入った。

「あの時・・お前と一緒になって本当に幸せだった・・」

「それは私も同じですよ」

寛三は亡くなる間際、小鶴の手を握って涙を流した。
小鶴も子供のようにわんわん泣いた。

時代もあるし、持って生まれた境遇もある。
だが人生は自分でつくるものだと千代は教えてくれた。

運命など後出しジャンケンのようなものだ。
一瞬一瞬で下す判断の累積が人生だろう。
ボロアパートで寛三の胸に飛び込んだ勇気は、それまで小鶴が積み重ねてきた人生の結論なのである。

空が仄かな赤みを帯びて、房総の山々へ影を落とし始めていた。

「母さん、そろそろ横浜へ戻らないと、夜の会食に間に合わなくなりますよ」

「もうこんな年寄りが銀行との会食に出なくてもいいだろうが?」

「それは困りますよ。メインバンクの頭取は母さんと話をするのを楽しみにしているんですから」

「外房の勝浦辺りへ出れば、のんびりと今晩泊まれるホテルが空いているじゃろう」

「我が儘言わないで下さいよ、母さん。あなたは従業員五百人を抱える企業の会長なんですよ。
まだ現役で頑張って貰わないと、従業員達が路頭に迷ってしまうんですよ」

いい年をした息子に懇願されて、小鶴は渋々車に乗り込んだ。

「やれやれ」

月出山の山頂に大きな満月が姿を現した。
それは幼い頃に観た月と何一つ変わってはいなかった。

閉幕

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二十三夜待ち 第二十一章

二十三夜待ち 第二十一章 

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その半年後、四年間続いた太平洋戦争は敗戦を迎え、マッカーサー司令官が厚木に降り立った時、この国は羞恥心の欠片もないほど変節してしまった。

それは山奥に位置する月海集落とて例外ではなかった。

名主だった睦沢家は農地解放によって没落し、和馬と千代との間にできた娘は、月海集落を離れて東京へ転居したと聞く。

睦沢家も華族も、巨大な財閥にしても、別に悪いことをしたわけではない。

ただ、あの八月十五日を境に時代が変わっただけなのだ。

だが人の心根は変わらない。

「南無、二十三夜様」

「南無、二十三夜俗諦勢至菩薩」

暗い灰色の時代、二十三夜に集う女達が深夜密かに祈ったのは、決して日本が戦争に勝つことではなく、亭主や子供、そして家族が幸せに暮らせることだった。

ほんのり薄紅をさした女心。

女達が解放される夜。

未通娘だった小鶴にはわからなかったが、夜も更けると、若い女達は村の男衆の噂話に花を咲かせ、女房衆は夫との閨を自慢し合って騒いだのではないか。

夫を戦地へ送った女房は、その無事をただただ月に祈っていたのではないか。

戦時下にあっても、人を愛する心は変わらない。

だが小鶴が寛三に抱かれたのは、千代の後押しがあったからだけではなく、昭和三十一年という自由が許される時代だったことも無縁ではなかろう。

小鶴は谷上正一に離縁を告げた。

あれほど小鶴を邪魔者扱いしていた谷上家だったが、労働力を失うことを恐れて掌を返したように遺留した。

「私は家畜じゃありません」

そう吐き捨てて、小鶴は家を飛び出して寛三のアパートへ転がり込んだ。

続く…

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二十三夜待ち 第二十章

二十三夜待ち 第二十章 

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蝉の声がけたたましい。


小鶴の息子は、月讀神社の眼前に広がるゴルフ場に目を遣り、退屈そうに軽くクラブを素振りする動作をして見せた。


「なかなかいいゴルフ場だね」


「ここは一面、薄の野原だったんじゃ」


小鶴は吐き捨てるように言うと、暫し真昼に遠き昔の夢を見た。


二十三夜の青白い月明かりの下、執拗に睦み合う千代と清一の姿は、まるで雌雄の龍が絡み合う神聖な営みに見えた。
月光を遮る木々の葉影が、月に照らされた二人の肌に模様を描き、縄文人が施した刺青のように妖しく隈取っていた。

遠く月讀神社から、呪文にも似た女達の念仏が聞こえてくる。


「南無、二十三夜様」


「南無、二十三夜様」


「南無、二十三夜俗諦勢至菩薩」


「南無、二十三夜俗諦勢至菩薩」


陰暦二十三日の夜、月待ちをすれば願い事が叶うとされていた。

だが千代と清一の願いは叶わなかった。


否、あの戦争の時代、二人は駆け落ちしてまで一緒になろうとは思わなかったに違いない。
生きるだけで精一杯だったからだ。
せめて二十三夜だけでも、二人で過ごせる時間が与えられることを感謝していたのかもしれない。


(酷い時代だった)


あれほど才色兼備だった千代が、画家として大成したかもしれない清一が、人生を最期まで全うすることなく命を絶った。
時代と境遇を怨みながら、花火のように持てる命を刹那の逢瀬に輝かせたのだ。

それが千代と清一にできる生の成就であり、暗い世相への抵抗だったのかもしれない。
清一が描いた天女の下で千代が縊死したのも、人間が生来持つ愛を貫けない時代や境遇に対する無言の抗議だったのかもしれない。

続く…

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二十三夜待ち 第十九章

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「ああ、ダメよ・・いやっ・・」


寛三の舌先が膣孔を抉りながら、弄ぶように肉芽を下からチロチロと刺激する。
不器用な反復ではあるが、却って女の体はそんな単純さに焦らされ翻弄されてしまう。


「小鶴さん、貴女が全てを捨てて僕の許へ来てくれるのを待っている」


「私なんか・・私なんか・・」


「・・どうしてかは僕もわからない。でも毎日小鶴さんと一緒にいられたら、きっとどんなに辛いことでも堪えていけると思う」


寛三は服を脱ぎ捨てると、硬く怒張したものを小鶴の膣孔へ押し当てた。


「ああっ」


体の芯を赤々と熱した剛棒で貫かれた小鶴は、子宮を突き上げられるような圧迫感を下腹部に感じた。
それは夫との交わりでは受けたことのない波動だった。
寛三の想いに突き上げられながら、小鶴は薄紅色の雲がなびく天上界へと昇華させられていく。


「いいっ、いいの・・もっと、もっと激しく私を突いて」


「小鶴・・ああ、小鶴」


二人は汗まみれの体を擦り合わせながら、忘我の世界へと深く迷い込んで行く。
人智では理解できない快楽が、二人の結合点から全身へと広がっていった。


「あ、小鶴・・もう・・」


「あ、もう・・いきそう・・ああっ、いく、いっちゃう・・」


今まで経験したことのない悦びに全身を撃たれた小鶴は、我を忘れて寛三にしがみついた。
子宮が押し潰されるような激しい寛三の熱情に、小鶴はその肢体を揺さぶられながら嬌声を振り絞った。


「あっ、だめ、いくっ、いくぅぅぅ・・」


間攣させながら、小鶴は意識が薄れていくのを覚えた。

つづく…









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二十三夜待ち 第十八章

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戸籍上の夫はいるが、子供を身籠ったことのない二十五歳の成熟した女である。

行商と農作業で鍛えた薄い褐色の体は、女豹のようなしなやかさを保っていた。

透けた肋骨を守るようにくっきりと迫り出した乳房は、硬く蕾んだ少女の張りと、触れなば融け出す年増の柔餡を兼ね備えている。

そして凛と起った乳首は、まだ十九歳の青年に男の覚悟を強いるように、その尖った銃口を容赦なく向けて脅していた。


「抱いて」


重い足枷を解いた瞬間、暴発した若い男の性は、跳びかからんばかりに小鶴をけば立った畳へ押し倒した。


「好きだ・・好きなんだ・・」


まるで大型犬に圧し掛かられているかのように、寛三は荒い呼吸を繰り返しながら小鶴の体を痛いほど抱き締めた。


「いつかこうなることを・・私も求めていたのかもしれない」


初めて受ける男の熱情に、小鶴も恥ずかしいほど陰部が熱くたぎるのを感じていた。


「小鶴さん」


寛三は乳房に顔を埋めて遮二無二乳首を吸った。

千切れんばかりに乳首を吸う男の直向きさが、またいっそう小鶴の女を燃え上がらせていく。


「あっ、寛三さん・・気持ちいい・・」


寛三の舌先が執拗に乳首を捉えるたび、小鶴は小さく喘いで上半身を震わせる。


寛三は性急に小鶴の両脚を開くと、既に濡れそぼっている陰部に顔を埋めた。


「あっ、そこは・・ダメよ・・頭がおかしくなっちゃう・・」


初めて男に陰部を晒して肉裂を舐め上げられた小鶴は、その経験したことがない強い快楽に身を捩った。

羞恥に両脚を閉じて逃げ出したいが、寛三の逞しい腕で剝き身のように拡げられている。

続く…

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二十三夜待ち 第十七章

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素封家の睦沢家に嫁ぎながら、夫の和馬ではなく、かつての生徒だった画家の下布施清一を愛した千代。

千代は社会が用意してくれた幸福を捨て、清一の心の中に生き続ける道を選んだのだろう。


だが小鶴は、道具としての暮らしに不満を抱えながらも、夫や家族を捨てる勇気が持てずに躊躇っている。

寛三に愛されたい。


一度だけでも抱かれたい。

その想いは真実だが、社会から逸脱してしまう恐怖が小鶴を踏み止まらせていた。


その時、小鶴は千代の声を聞いた。


(小鶴、幸せは自分でつかむものよ)

おそらく子供がいなければ、千代は清一と駆け落ちしていたのかもしれない。

あの激しい情事を目撃した小鶴は、それも至極当たり前のことと今になれば思えた。

たとえ赤貧洗うが如き暮らしに身を落とそうが、男に愛されて生きる幸せは、女にとって無上の西方浄土なのではないだろうか。


愛される幸せ。


愛する幸せ。


男と女の歓びを知らずして、与えられた命を虚しく終えるなら、何のために生まれてきたのかわからないではないか。


小鶴は寛三の手を振り解くと、自分から絣の着物を脱ぎ捨てて全裸になった。


「こ、小鶴さん」


思わぬ小鶴の大胆さに、寛三は後退りしながら血走った目を大きく見開いた。

 

続く…

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二十三夜待ち 第十六章

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二人はみすぼらしい六畳一間の部屋で、卓袱台を挟んでしばらく俯き合っていた。
小綺麗に掃除は行き届いていたが、家財道具は布団一組しかない殺風景な部屋だった。

「な、何か食べる物をつくるわ」

立ち上がって部屋の外にある共同炊事場へ行こうとすると、小鶴は乱暴に背後から抱きすくめられた。

「ず、ずっと好きでした」

「・・・・」

力任せに抱かれながら、小鶴はありきたりな言い訳を何度も頭の中で繰り返した。

私には夫がいるから。

ずっと年上のオバサンだから。

私、男の人に想われるような美しい女じゃないから。

(違う・・そんなの嘘だわ!)

ぶるっと小鶴は身震いした。

体の何処からか突き上げてくる抑え切れない情動に、あざとい詭弁と紙一重の冷徹な理性の鎧が剥げ落ちていく。

容姿と貧しさに対する劣等感。

子供の頃から弱い自分を守るために、ありとあらぬる言い訳を考えてきた。
それが大人達には利発と映ったのだろうが、そうでもしなければ、小鶴自身が己の無価値さに押し潰されてしまいそうだった。

確かに道具として小鶴は優秀なのだろう。
子守りにしても、農家の嫁としても、社会が求める労働力としては重宝されてきた。

だが小鶴は愛されたことがない。
酒浸りの父と愛しみを失った母は、小鶴を避妊しそこねた結果の厄介者として売り払った。

その小鶴を買い取った夫と舅姑は、牛馬よりも安価な道具として手荒く扱き使った。
涙が頬を伝った。

小鶴の負い目や劣等感を知りながら、もっと華やかな結婚ができるかもしれないのに、寛三はみすぼらしい行商に身をやつした女を愛すると告げたのだ。

「・・若奥様」

小鶴は口の中で小さく呟いた。

続く…

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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