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『追憶の白昼夢』 第十二章(最終章)

『追憶の白昼夢』

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(十二)

快い疲労と倦怠感に包まれて、二人はベッドに寄り添って横たわっていた。
彩香は全身に揺蕩う余韻を惜しむように、俯せの姿勢で眠ったように動かない。
私はそっと丸い尻に手を伸ばして、掌で軽く撫でた。

「いやん、くすぐったい」

彩香は再び豊満な裸体を摺り寄せてきた。
私は上半身を起こすと、おもむろに煙草の火をつけた。
吐き出した煙が無風の部屋にたなびき、満ち足りた永刧を感じた。

十五年の歳月は確かに彩香を変容させていた。
しかし現在の生活に不満を抱いているに違いない彼女には、精神的にも肉体的にも癒しが必要なのである。

彼女の苦痛を救えるのは、やはりかつての恋人である私しかいないのだ。
私はそう自信を持って彩香の悩みに向き合おうと試みた。

「旦那と上手くいってないのか?」

「そんなことないわ。お互いに愛し合っているもの」

彩香は再び活力を取り戻しつつある肉茎を指先で弄んでいる。

「隠すことはないさ。そうでなければ昔の恋人に会いに来るわけないもんな。相談に乗るから話してみろよ」

彩香は指の動きを止め、ベッドから下りると窓の外へと目を遣った。

「哲ちゃん、あなたは本当に変わらないわね。ううん、別にあなただけじゃないわ。男って生き物は幼稚で単純だってこと」

意外な彩香の言葉に私はぎょっとした。

「だってそうでしょ?最近、主婦の浮気や不倫が話題になるけど、世の大半の男たちはその原因が夫との不仲や家庭不和にあれば安心するのよね。哲ちゃんだって私が会いたいと電話した時、同じことを考えたでしょう。暴力、浮気、性格異常の夫に、私が虐げられているんじゃないかって」

「……」

「うふふ、顔にそう描いてあるわ。男の世界観っていつもそのパターン。何かしらの因果律をこ
じつけて、他人を自分の論理で説明できないと駄目なの。特に女にはそうね。まるで心理学者のように、女の心中を説明して優位に立たないと安心できない。でもそれは男の勝手な思い込みに過ぎないの」

彩香は軽蔑した眼差しで冷笑した。

「女は違うのよ」

そう言うと、彩香は椅子に腰掛けて両脚を大きく開いた。
先ほどまで情熱的だった花芯は、明るいルーム・ライトに照らされ、医学書の模式図のように無味乾燥に見えた。

「ほら、ご覧なさい。あなたの大好きなところを。女の体は何にでも変わるのよ。女として発情した男を悦ばせることもできるし、母として愛らしい子供を産むこともできるの。聖と俗、両方併せ持っているのが女。そして正反対の性質が何の矛盾もなく、この体の中に潜んでいるのよ」

彩香はゆっくりと開かれた秘唇を弄り始めた。
私に向けた瞳は妖しくギラついている。

「女の体って不思議ね。最近、排卵日が近付くと無性に男が欲しくなるのよ。これ以上年を取ると子供ができなくなるぞって、体が警告しているみたい。 あなたに電話した時、丁度その日だったの…ああ、そう。 私、男が欲しかったの…よく言うじゃない…たまには定食以外の料理も食べたいって…折角東京に行くんだから、久しぶりに違う男を食べたかっただけ…気持ちいいわ…」

彩香の指先の動きが激しくなる。
赤く充血した花弁が不定形に歪み、再び生気を取り戻していく。

「いいっ、いいわ…私、夫以外に何人かの男と寝たけど、初めて浮気する男って初で可愛いわ…ねえ、哲ちゃん、もう一回しよう…ねえ…」

私は悄然として窓の外を見た。

十五年前、彩香と私はお互い心の奥底に夢の小箱を埋めた。
それは完結することのない淡く切ない二人の恋の想い出だった。

夢の小箱は浮世の疲れを優しく癒してくれた。
現実から逃避できる架空の世界を与えてくれた。

しかし夢の小箱を宝物のように大切にしていたのは、私だけだったようだ。
彩香はもう夢の小箱の在り処さえ忘れてしまっていたらしい。
そのことに気づかぬ私は、夢の続きが見られると思い箱を開けてしまったのだ。

それはまさしくパンドラの箱だった。
ありとあらゆる災いが箱から飛び出した。

だが私には彩香を責めることはできない。
十五年間にわたって、夢の小箱の中の彩香に救われてきたのは私の方がだったからだ。

開いたパンドラの箱に残ったもの、それは希望だったと言う。

私は一人で昇りつめている彩香から目を逸らし、妻のことを考えていた。

―閉幕ー

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Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

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ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
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臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
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だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

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