FC2ブログ

二十三夜待ち 第三章


二十三夜待ち 第三章 

FC2 Blog Ranking


そんな小鶴を見かねて、子守り奉公に雇ってくれたのは睦沢家に嫁いだ若奥様だった。

睦沢千代、三十三歳。
村長の跡取り息子の嫁、子守りする赤子の母親、そして小鶴がお世話になった尋常小学校の女先生でもあった。

千代は千葉県茂原町の出身で、女子師範学校を卒業した後、月海尋常小学校へ赴任してきた。
小鶴は就学前だったが、初めて千代を見た時の衝撃が今も忘れられない。

瓜実顔の整った容貌で、映画女優に負けない清楚な美貌が今も印象に残っている。
田舎では珍しい白いブラウスにスカート姿で溌剌颯爽と歩く姿に、集落の男達は農作業を忘れて誰もが振り返った。

だが所詮は教育も碌に受けていない男達である。
モダンな千代を眩しげに眺めるのが精一杯で、いざとなると話をするどころか、恐ろしくて視線すら合わせられない始末だった。

そんな高根の花だった千代を射止めたのが睦沢和馬だった。
和馬は睦沢家の総領で、将来は多くの小作を差配する村長を約束されていた。
今年三十五歳になる和馬だが、所謂お大尽の倅らしく、世間知らずでどこかぼんやりとした人物だった。

だが玉の輿である。
活発な千代だからこそ、和馬のように鷹揚な男が似合うのかもしれない。
二人は二歳になる一人娘に恵まれ、集落の誰もが羨む仲睦まじい夫婦に小鶴は見えた。

千代がどん底の生活を強いられていた小鶴を救ったのは、然もすれば窮屈で退屈な大家の嫁である身を紛らわすため、話し相手になる小鶴を傍に置こうとしたのかもしれない。
 
よく千代は小鶴の髪を撫でながら言う。

「小鶴は賢い娘だからきっと大切にしてくれる殿方が現れるわ」

南天に昇る澄んだ月がゆらゆらと歪んで見えた。

(嘘よ・・)

男と見紛う色黒の容貌と継ぎ接ぎだらけの着物ともんぺ。
誰が好んでこんなに貧しく醜い女を娶ろうとするだろう。
せいぜい振り向くのは、色欲に目が眩んだ父親のような碌でもない男しかいない。

続く…


皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

二十三夜待ち 第二章


二十三夜待ち 第二章 

FC2 Blog Ranking


確かに眼前に広がる月景色は美しい。
だが月海は、これといった名産品も名所名跡もない貧しい寒村である。

(月餅なら美味しいけど、月の光じゃ腹の足しにもならないよ)
 
丘陵に囲まれた狭隘な田畑と山林しかない月海集落では、若者が働ける大きな工場や商店はおろか、村人の糊口をしのぐに十分な農地すら拓くことができない。

せいぜい農家の跡継ぎが食べて行けるのが精一杯で、次男三男は口減らしで東京や横浜へ出なければならなかった。

(子守りの仕事にしたって・・)
 
十五歳になる小鶴は、代々月海集落の長を勤める睦沢家で子守りとして奉公している。
だがいつまでも子守りが続けられるはずもない。
いつかは集落を出て他所の村へ嫁がされる日がやって来る。

薄の穂を手折って小鶴は簪のように髪に挿してみた。

(女なんて・・いくら勉強ができても、貧乏で器量が悪い娘は一生幸せになれない)
 
利発で賢い娘だと、村の古老達は小鶴を可愛がってくれた。
だが頭を撫でながら古老達は決まって最後にこう言った。

「この先苦労も多かろうが、へこたれてはいかんぞ」

家は小作で貧しく、父はだらしない男だった。
金もないのに博打好き、その上酒飲みでいつも母を怒鳴り散らしていた。
家計を助けるため、母は昼間の農作業に加えて夜は内職に精を出さざるを得なかった。

女の幸せは男次第だ。

何一つ化粧もせず、野良着姿で婢女のように仕える母に、小鶴は他力本願にも似た女の宿命を腹立たしく呪った。

続く…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 18禁・官能小説
genre : アダルト

二十三夜待ち 第一章

  二十三夜待ち


二十三夜待ち 第一章 

FC2 Blog Ranking


夜半、南東の空に下弦の月が昇る。

房総丘陵が夜空より暗く沈み、臥竜の如くうねりをつくり寝そべっている。

氷のように冷たく青い月光が、晩秋の澄んだ夜気を透過し、山の斜面に広がる薄の穂を仄白く浮かび上がらせる。

いつもならすでに寝静まっている山奥の集落だが、今宵ばかりは、女達が老若集って降り注ぐ月の光を愛でている。

二十三夜待ち。

旧暦の九月二十三日は、江戸の昔から続く月待ち講から、飲食を共にして月の出を待つ風習が日本中に根づいている。

ここ、房総半島の中程に位置する月海集落でも、深夜の月の出から夜が明けるまで、女達が村外れの月讀神社に集まって、一睡もせず長話するのが習いになっていた。

昭和十九年、戦局は厳しさを増していると聞く。

都市部では食料が逼迫し、増産のために中等学校以上の生徒五百万人が動員されたらしい。

まだ食料にゆとりがある農村では、決して贅沢とは言えぬが、古くからの娯楽が細々と続けられていた。

月讀神社の社殿からは、暗い世相故に尚更か、月見を楽しむ女達の笑い声が明るく響いていた。

月讀神社は月海集落に江戸時代からある神社である。

そもそも月海と言う地名は、付近にそびえる小高い月出山に因んでつけられた。

その山裾から昇る月が、低く連なる丘陵の稜線を照らすと、幾重にも重なる浜辺の白い波頭を想わせるからだと古老は言う。

高滝小鶴はフンと鼻で笑った。

続く…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 最終章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(十四)

「晶子、私のものをくわえるんだ」

高松の命令に晶子は俯いたまま首を横に振った。

「私の言うことが聞けないのか?おまえと息子が暮らしていけるのは、誰のおかげなんだ?」

画家は着物を脱ぎ始めると、晶子の前に自分の肉茎を突き出した。

(ああ、晶子は家族のために画家の言いなりになっていたんだ。やめるんだ、晶子)

敬一は心の中で叫んだ。
まさか晶子が画家にこんな仕打ちを受けているとは思いもしなかった。
しかし眼前に繰り広げられる光景に、敬一は金縛りに遭ったように動けない。

晶子は椅子から下りると、おどおどした手つきで画家の着物を剥ぎ取った。
そしてでっぷりと醜く腹の出た画家の前に跪くと、瞳を閉じて無心に萎れた肉茎を口に含んだ。

「おう、力が漲ってくるわい」

赤黒い肉茎が次第に固さを増し、晶子の口に納まりきらないほど膨張した。
晶子は時折高松の顔をみながら、懸命に巨茎をくわえている。
高松は指で四角い枠をつくり、晶子の顔を捉えた。

「今度はこういう構図で描くのもいいな。女の欲情した表情は実に美しい。私もこの歳でこれほどいい女を手にできるとは思わなかった。亭主には悪いがな」

「嫌、あの人のことは言わないで」

晶子は高松の肉茎を口から離すと、フローリングの床に四つん這いになった。

「今日は後ろからして欲しいのか?」

晶子はヒップを高々と揚げ、左右に振って画家を誘った。
尻の谷間から続く性器が赤く充血し、発情期の獣の牝そのままだった。

(あ、晶子…)

敬一は思わず窓を叩こうとした。
しかし晶子の発した言葉にその手を止めた。

「ああ、もうお芝居は終わりにして、早く入れて頂戴」

それまでの悲痛な声とはうって変わって鋭い命令口調になった晶子に画家は慌てて、唾液でぬるぬると光る肉茎を手に、その白い尻を背後から抱きかかえた。

「あうっ、入ってくる」

晶子は四つん這いのまま背中を反らした。

「いいっ、先生。もっと激しく突いて。もっと激しく」

豊かな乳房を前後に揺らしながら、晶子はリズミカルに尻を高松の腹にぶつけた。
高松は晶子の激しさに防戦一方だ。

晶子は性欲を満たすために、画家の奴隷を演じていたに過ぎなかったのだ。
実は高松こそが晶子の性奴であったのだ。

美しく残酷で淫らな晶子。
敬一は、妻の痴態から目を逸らせなかった。

「気持ちいいっ。先生、もっと、もっとよ。いくらお金を持ってても、セックスが駄目だったら、私の愛人失格よ。うちの亭主みたいにリストラしちゃうから…ああん」

やがて敬一は痴宴の続く窓からよろよろと目を離した。
再び青い月の光に包まれた竹林が、敬一をそっと迎えてくれた。
その仄暗い空間に、敬一はぽつんと一人佇んだ。

(会社の次は家族か…)

敬一は家でもう一度、晶子の裸婦像を見たいと思った。

―閉幕―

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る



関連記事

theme : 妄想の座敷牢
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 第十三章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(十三)

「先生、やめて」

微かに女の声がした。

「だって恥ずかしい」

敬一はすぐに晶子の声だとわかった。

「芸術のためだ。我慢しなさい」

高松の声だ。何かを命じているようだ。

敬一は激しくなる鼓動を抑えながら、カーテンの隙間から部屋の中を覗いた。

(あっ!)

敬一はとっさに声を飲みこんだ。
部屋のアトリエだった。
スケッチ・ブックを持った画家の横顔が見える。
そしてその視線の先には、全裸で椅子に座る晶子がいた。

しかも決して絵画のモデルにはありえないようなポーズをとっていた。
椅子の上で長い両脚をM字型に開いているのだ。

秘所が明るい照明を浴びて剥き出しになっている。
うっすらと恥丘を覆う黒い陰の下、淫らに赤茶けた花弁が開き、鮮紅色の秘肉まで露に見える。
しかも晒された花弁は、しっとりと光沢を帯びていた。

「こんないやらしい格好、主人にも見せたことがないのに…」

晶子は腰を上下に細かく震わせた。
つっと一滴の透明な雫が、輝きながら糸を引いて床に落ちた。

「おいおい、そんなに動いたらデッサンできないじゃないか?」

画家はスケッチ・ブックを置くと、一本の絵筆を取って晶子の前に立った。

「いや、それは許して」

晶子は画家を縋るような目で見た。

「許しても何も、これが欲しくてここを濡らしているんだろう?」

画家は晶子の前に座ると、手にした絵筆で淫らに濡れた花弁をなぞった。

「ああっ」

晶子は上半身を仰け反らせた。
そして巧みに動く画家の筆先に合わせて、腰を前後左右に振り始めた。

「だめ、あうう、だめなの」

晶子は菊門まで見えんばかりに、激しく下半身を揺すった。
その動きに豊かな乳房も大きく波打ち、痛いほど勃った乳首が天を衝いている。

妻は老画家の性の奴隷となっていたのだ。
ごくありきたりなセックスしかしていない敬一が知る由もない妻がそこにいた。

(これが晶子か…)

敬一は妻の痴態を目の前にして、先ほどまでの意気込みは霧敢し、ただただ驚き呆れるばかりだった。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る



関連記事

theme : 今夜のおかず
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 第十二章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(十二)

裸娼婦を巡る口論の後、ますます晶子は家を空けることが目立つようになった。
リストラされた敬一が家庭での力を失っていくのと対照的に、晶子は働くことで絶対的は権力を手に入れた。

高松に重要な仕事を任されて忙しいからだといって、晶子は就寝時間以外の殆んどの時間を、画家の家で過ごすようになった。
朝、翔太を学校に送っていくと同時に家を出て、夜遅くまで高松の家から戻って来なかった。

そして翔太の学校が終わると塾のない日は高松の家に行き、夜まで自宅に戻らなくなっていた。
やはり晶子は翔太を手放さないつもりらしい。
翔太自身も晶子の影響か、時々失業した敬一に対して小馬鹿にした口を利くようになっていた。

ローンが残る我が家に、敬一は一人でいる時間が多くなった。
あいかわらず仕事は見つからない。

仕事を見つけようとする意欲も徐々に薄れ始めていた。
敬一が残り少ない退職金から生活費を渡さなくても、晶子と翔太は高松の家で困りもしない。
今や敬一の収入など、誰も当てにしていなかった。

「明日の個展の準備で、今夜徹夜になりそうだから、翔太と高松先生の家に泊るわ」

一方的に晶子はそう言うと電話を切った。
遅くなっても必ず帰宅していた晶子が、いよいよ外泊を宣言したのだ。

(もう我慢できない)

敬一は日本酒を呷って家を出ると、高松の屋敷に向かった。
梅雨明け間近の青々とした月が中天に輝き、夜道を冷たく照らしている。

(髪を引っ掴んででも連れ戻してやる)

ここまで侮辱されても、敬一は晶子と別れようとは思わなかった。
もしリストラされる前だったら、潔く離縁を言い渡していただろう。

しかし会社という社会との接点を失った敬一は、今や家族だけが心の支えだった。
もしその家族を失えば、敬一は砂を噛むような孤独に身を置くはめになるだろう。

敬一は月の光を頼りに、低いブロック塀を乗り越えて高松の家に潜入した。
広い敷地を覆う竹林が、外の住宅地から屋敷を完全に隔絶している。

中空から差し込む月光で青緑色に彩られた竹林の先に、洋館の黒々とした陰があった。
目を凝らすと、黒い陰の中にちらっと光が見える。

敬一は足を忍ばせて屋敷に近づいた。
大きな窓に引かれたカーテンの僅かな隙間から、部屋の明かりが漏れていた。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 18禁・官能小説
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 第十一章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(十一)

敬一は絵を紙袋に戻すと、よろよろとその場に座り込んだ。

(晶子が高松にヌードを…)

足が震えているのがわかった。
そして胃に込み上げるような鈍痛が走る。
晶子は家政婦のパートだけではなく、絵のモデルとして高松に裸体を晒していたのだ。
信じられないことだった。

絵の中の晶子の顔は、結婚を決めた十年前のあの夜と変わらぬ美しさだった。
それはあの時感じた幸福感を思い出させた。

晶子をまだ愛している。
失いたくない。
高松などに渡したくない。

敬一は妻の絵を見つめながらそう思った。

その夜、敬一は晶子を問い詰めた。

「別に隠していたわけじゃないわ。先生の作品にして戴くのは名誉なことなの。あの絵だって何十万円って価値がつくのよ」

晶子は少しも悪びれるところもなく、平然と開き直った。

「バカッ!人妻でありながら、どこの世界に夫以外の男に裸を見せる女がいるんだ」

「仕方ないでしょ。高松先生が描きたいって言うんだから」

「ふざけるな。お前は貞淑という言葉を知らないのか。妻としての自覚がないのかっ!」

敬一は激怒してテーブルを叩いた。

「何よ。働かないで女房のヒモみたいな生活しているあなたに、説教なんかされたくないわ。女房子供を養えないくせに、夫、夫って偉そうな顏しないでよ」

晶子は敢然と敬一に反発した。
敬一は言葉に詰まった。
今の敬一には妻を従わせるだけの力もないのだ。

「…しかし…」

「しかしじゃないでしょ。あなたは本当に器量が小さいわね。私は芸術のために脱いだのよ。高名な画家に妻の美しさを描いて貰えるなんて、名誉なことだと思わないの?」

敬一は二の句が継げなかった。
黙りこくってしまった夫を後目に、晶子は勝ち誇ったように部屋を出ようとした。

「う、浮気はしていないだろうな?」

敬一の声は惨めにも裏返っていた。

「馬鹿ね。男ってそんなことしか考えないんだから。高松先生はもう六十歳よ。浮気なんかするわけないでしょう」

晶子は薉むような視線を残し、席を立った。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 今夜のおかず
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 第十章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(十)

晶子の生活が変わった。
朝、朝食をつくり翔太を学校へ送ると、その足で高松の家に向かう。

午前中、高松の家で朝食と昼食を用意して、空いた時間で広い家の掃除をする。
午後は家に戻って家事を済ませ、翔太の迎えに出かける。
夕方になると再び高松の家で夕食の支度をして、次は家の食事にとりかかるといった具合である。

土曜と日曜は基本的に休みで、高松が国内や海外へ製作に出かける時も休みが貰える。
しかし高松の家と自宅の家事を両方こなすのはなかなか大変なようだった。

「先生がわがままで疲れるわ。折角つくった食事でも、気にいらないと全く手をつけないんだから。頭に来ちゃう」

最初の頃、晶子はよく敬一を恨めしそうな顔で睨んで愚痴をこぼした。

「この間なんか、アトリエが散らかっていたから、親切心で掃除したら怒鳴られちゃったわ。ちょっとカンパスの位置を動かしただけなのに」

敬一は専ら妻の聞き役に回り、慰めるのが仕事になった。

「時々私に描きかけの絵を見せて、ヴァルールがどうのこうの、マチエールがどうのこうの、そんなの私にわかるわけないのに、くどくど説明するのよ。疲れちゃうわ」

「あ〜あ、働くのって大変ね。いつまで私にこんな仕事をさせる気なの?あなた、早くいい再就職先を見つけてよ」

そんなことをこぼしながらも、晶子は休むことなく画家の家へ通い、パート勤めを続けた。

一カ月もすると慣れてきたのか、晶子は敬一に文句を言わなくなった。
家事の他にも、高松の仕事の手伝いをするようになったのだという。
画材の用意と後かたづけ、モデルの世話等、家事以外に画家の助手として仕事を任されて、晶子も面白くなってきたのだろう。

個展の準備が忙しいと、午後や土日も高松の家へ出かけることが多くなった。
そして仕事がまだ見つからない敬一が、逆に家事や翔太の送り迎えをさせられるはめになった。

そんなある日、探し物があって押入れの中を調べていると、奥の方に高価なブランド品のバックや靴が積まれているのに敬一は気がついた。
勿論、敬一が買ってやったものではない。
しかも埃を被っていない最新モードである。

(一体これは…?)

リストラされてからというもの、敬一はブランド品を買えるような金を晶子に渡したことがなかった。
またパートの給料ではとても手が出せない代物である。

(男でもいるのか?)

敬一は顔から血の気が失せていくのを感じながら、押入れからブランド品を全て掻き出した。全部で十点もあった。更にブランド品の陰に隠れていた大きな紙袋も見つけた。
紙袋を開けると、中から額縁に入った一枚の絵が出てきた。

(こ、これは?)

押入れに隠されていた絵は裸婦像だった。 
薄い暖色の背景の中に、両腕を頭の後ろで組んだ女の上半身が、淡いパステルで写実的に描かれている。
こんもりと形の良い乳房とくびれたウエストの形に敬一は見覚えがあった。

(まさか…)

改めて絵のモデルの顔をじっくりと見た。妻の晶子だった。
絵の中の晶子は敬一の視線を避けるように、澄ました顔で斜め前を見ている。
そしてその絵の隅には、〈S.TAKAMATSU〉とサインが記されていた。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

『妻の娼婦像』 第九章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(九)

晶子のパート勤めが始まった。
仕事先は近所に住む画家、高松省三の家だった。

高松省三とは敬一も何度か道で擦れ違ったことがある。
長髪を後ろに束ねて口髭を蓄えているが、背が低い上に腹が出ているので、とても芸術家には見えなかった。
また脂ぎった赤ら顏には、六十歳近いとは思えない精力的な雰囲気が漂っていた。

美術に疎い敬一は知らなかったが、晶子に聞いた話では、個展を中心に活躍している有名な洋画家らしい。
その言葉通り、敬一が目にした高松の家は、周囲の建売りの家とは明らかに違っていた。

住宅地から少し離れた広い敷地に、アトリエと住宅を兼ねた立派な洋館が、深い竹林に囲まれてひっそりと建っていた。
いくら便の悪い郊外とはいえ、相当な資産がなければあれだけの住宅は買えないだろうと敬一は羨んだ。

高松はその邸宅で、近所の主婦や子供を集めて絵を教えていた。
晶子のその教室の生徒の一人である。

晶子の話では、金儲けのために教室を開いているのではなく、孤独な作業の多い画家の気晴らしだという。
若い頃連れ合いを亡くし、後添いを貰わなかった寂しさの慰めでもあるらしい。

晶子は仕事の内容をこう語っていた。

「高松先生にあなたのリストラを話したら、助手をしてくれないかって誘われたのよ」

「画家の助手って?」

「高松先生は一人暮らしでしょ。今までは他人に任せられなくて、ご自分でいろいろやってらっしゃたそうなんだけど、歳を取るにつれて、炊事とか洗濯が辛くなってきたんですって。だから身の回りの世話をしてくれる人を探されていたの」

「住み込みか?」

「まさか。午前中と夕方だけのパートよ。これなら翔太にも寂しい思いをさせないでしょう?」

敬一は頷いた。
画家の助手と言われて驚いたが、実際は家政婦のようなものだろう。
近所での仕事なら自由がきくし、晶子にも勤まりそうだと思った。

「いいんじゃないかな」

「いいも悪いもないでしょう?あなたがしっかりしないから、私が働かなくてはならないのよ。本当に無責任な人ね」

晶子のキツイ言葉遣いが、再び敬一を不安にした。
今まで美貌を生かしたコンパニオンのアルバイトしか経験のない晶子が、地道なパートを続けることができるのだろうか。

晶子は敬一が口にしたそんな心配を、「先生は優しいから大丈夫」と意にも介さなかった。
金を払って習い事をする場合、先生も生徒に遠慮がある。
しかし優しい先生も雇主となれば別であろう。 

特に芸術家は気難しいに違いない。
わがままな晶子と気難しい画家では、すぐに喧嘩別れともなりかねないのではないか。
敬一は一株の不安を抱きながら、晶子の働く様子を見守ることにした。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る


関連記事

theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

『妻の娼婦像』  第八章

『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking

(八)

晶子の愚痴はなおも続いている。

「昔約束してくれたことを覚えてる?結婚したら、晶子も働かたりしない。好きなことをして暮らせばいいって」

「それはおまえが仕事なんかしたくないと言うから…」

「でもそれが結婚の条件だったでしょう?もういいわ、今更愚痴を言っても始まらないし、あなたが頼りにならないのなら、翔太のために私がパートで働くわ」

敬一は妻の思わぬ提案に、その真意を探りかねた。

「働くって、おまえ…」

「仕方ないでしょ。どうせあなたに仕事が見つかっても、昔ほどの給料は貰えないんじゃないの?だったら翔太の大学を出るまで私が働かなきゃならないでしょう」

敬一は妻の方針転換をいぶかったが、しかしすぐにその疑念を打ち消した。
家のローンと教育費だけなら、再就職先を選り好みしなくても、質素に生活すればなんとか払っていけるはずだ。

だが、晶子の自由になる金はない。
おそらく晶子はそれが耐えられないのだろう。
だが、たとえそういうことであっても、働くことによって金を稼ぐことの厳しさを知れば、晶子の甘えも治るかもしれない。

「しかし仕事のあてはあるのか?」

敬一はふと心配になった。
晶子に地道なパートが勤まるのだろうか?
晶子の性格と美貌からすれば、スナックのホステスでもやりかねない。

「ええ、近所で私にもできそうな仕事を見つけてきたの。それより人の仕事を心配するぐらいなら自分の心配をしたら?」

晶子は冷たく言い放った。
そして無能は夫を詰る妻の愚痴はこの後も延々と続いた。

だが晶子が働く決心をしてくれたことに、敬一は感謝していた。
それは家計の助けになることは勿論、自分勝手な晶子が初めて家庭の危機を救おうとしているからだった。

(禍転じて福となすか)

もしリストラされなければ、敬一は晶子と結婚したことを一生後悔していたかもしれない。
だが家庭が危機に直面することで、晶子が変わろうとしている。

家庭を守る妻として、子を守る母として、その自覚を持ちつつあるのだ。
敬一のリストラも、長い目で見れば大きな収穫になるかもしれない。

敬一は晶子の口撃を浴びながら、幾分心の安らぎを予感していた。

つづく…

皆様から頂くが小説を書く原動力です
FC2官能小説集結 にほんブログ村 恋愛・愛欲小説 人気ブログ「官能小説」ランキング 

「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
関連記事

theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
最近の記事
FC2カウンター
最近のコメント
データ取得中...
ブログ内検索
アクセスランキング
ご訪問ありがとうございます。
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ フィードメーター - 『妄想の座敷牢』~官能小説家、紅殻格子の世界~
ランダムでブログを紹介
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

携帯からご覧いただけます
QR
FC2ブックマーク
RSSリンクの表示
FC2ブログランキング
 あと一歩のを目指して…
 日々頑張って書いています

応援よろしくお願いします
FC2官能小説ランキング入り口 
FC2官能小説ランキング入り口
にほんブログ村
いつも応援ありがとうございます。お陰さまで「恋愛(愛欲)小説ランキング」上位に入りました。

↓妄想の座敷牢は何位??↓
   にほんブログ村 恋愛小説(愛欲)ランキングに行ってみる
     にほんブログ村
  にほんブログ村(愛欲小説)
     にほんブログ村 小説ブログはこちらから…

 [官能小説] ブログ村キーワード
人気ブログランキング


        
人気ブログランキングへ
カテゴリ別小説選びにお勧め
様々なジャンルの小説検索が可能です。 

  カテゴリ別オンライン小説
  カテゴリ別小説ランキング 
 
     HONなび 
 オンライン小説ナビゲーター「HONなび」

    ネット小説ランキング投票
ネット小説ランキング/成人向け小説専用
ジャンル別リンクサイト様
相互リンクサイト様
※「妄想の座敷牢」はリンクフリーです。 また相互リンクを希望される方は、メールフォームorコメント欄で連絡をいただければ検討させて頂きます。 ※ただし商用目的だけのサイト及び有料アダルトサイトに誘導する目的のサイトは、こちらにお越しくださる皆様のご迷惑となりますのでお断りさせて頂きます。
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク用バーナー
妄想の座敷牢8

妄想の座敷牢7

妄想の座敷牢9

妄想の座敷牢4

妄想の座敷牢6

妄想の座敷牢5