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『妻の娼婦像』 最終章

『妻の娼婦像』
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(十四)

「晶子、私のものをくわえるんだ」

高松の命令に晶子は俯いたまま首を横に振った。

「私の言うことが聞けないのか?おまえと息子が暮らしていけるのは、誰のおかげなんだ?」

画家は着物を脱ぎ始めると、晶子の前に自分の肉茎を突き出した。

(ああ、晶子は家族のために画家の言いなりになっていたんだ。やめるんだ、晶子)

敬一は心の中で叫んだ。
まさか晶子が画家にこんな仕打ちを受けているとは思いもしなかった。
しかし眼前に繰り広げられる光景に、敬一は金縛りに遭ったように動けない。

晶子は椅子から下りると、おどおどした手つきで画家の着物を剥ぎ取った。
そしてでっぷりと醜く腹の出た画家の前に跪くと、瞳を閉じて無心に萎れた肉茎を口に含んだ。

「おう、力が漲ってくるわい」

赤黒い肉茎が次第に固さを増し、晶子の口に納まりきらないほど膨張した。
晶子は時折高松の顔をみながら、懸命に巨茎をくわえている。
高松は指で四角い枠をつくり、晶子の顔を捉えた。

「今度はこういう構図で描くのもいいな。女の欲情した表情は実に美しい。私もこの歳でこれほどいい女を手にできるとは思わなかった。亭主には悪いがな」

「嫌、あの人のことは言わないで」

晶子は高松の肉茎を口から離すと、フローリングの床に四つん這いになった。

「今日は後ろからして欲しいのか?」

晶子はヒップを高々と揚げ、左右に振って画家を誘った。
尻の谷間から続く性器が赤く充血し、発情期の獣の牝そのままだった。

(あ、晶子…)

敬一は思わず窓を叩こうとした。
しかし晶子の発した言葉にその手を止めた。

「ああ、もうお芝居は終わりにして、早く入れて頂戴」

それまでの悲痛な声とはうって変わって鋭い命令口調になった晶子に画家は慌てて、唾液でぬるぬると光る肉茎を手に、その白い尻を背後から抱きかかえた。

「あうっ、入ってくる」

晶子は四つん這いのまま背中を反らした。

「いいっ、先生。もっと激しく突いて。もっと激しく」

豊かな乳房を前後に揺らしながら、晶子はリズミカルに尻を高松の腹にぶつけた。
高松は晶子の激しさに防戦一方だ。

晶子は性欲を満たすために、画家の奴隷を演じていたに過ぎなかったのだ。
実は高松こそが晶子の性奴であったのだ。

美しく残酷で淫らな晶子。
敬一は、妻の痴態から目を逸らせなかった。

「気持ちいいっ。先生、もっと、もっとよ。いくらお金を持ってても、セックスが駄目だったら、私の愛人失格よ。うちの亭主みたいにリストラしちゃうから…ああん」

やがて敬一は痴宴の続く窓からよろよろと目を離した。
再び青い月の光に包まれた竹林が、敬一をそっと迎えてくれた。
その仄暗い空間に、敬一はぽつんと一人佇んだ。

(会社の次は家族か…)

敬一は家でもう一度、晶子の裸婦像を見たいと思った。

―閉幕―

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『妻の娼婦像』 第十三章

『妻の娼婦像』
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(十三)

「先生、やめて」

微かに女の声がした。

「だって恥ずかしい」

敬一はすぐに晶子の声だとわかった。

「芸術のためだ。我慢しなさい」

高松の声だ。何かを命じているようだ。

敬一は激しくなる鼓動を抑えながら、カーテンの隙間から部屋の中を覗いた。

(あっ!)

敬一はとっさに声を飲みこんだ。
部屋のアトリエだった。
スケッチ・ブックを持った画家の横顔が見える。
そしてその視線の先には、全裸で椅子に座る晶子がいた。

しかも決して絵画のモデルにはありえないようなポーズをとっていた。
椅子の上で長い両脚をM字型に開いているのだ。

秘所が明るい照明を浴びて剥き出しになっている。
うっすらと恥丘を覆う黒い陰の下、淫らに赤茶けた花弁が開き、鮮紅色の秘肉まで露に見える。
しかも晒された花弁は、しっとりと光沢を帯びていた。

「こんないやらしい格好、主人にも見せたことがないのに…」

晶子は腰を上下に細かく震わせた。
つっと一滴の透明な雫が、輝きながら糸を引いて床に落ちた。

「おいおい、そんなに動いたらデッサンできないじゃないか?」

画家はスケッチ・ブックを置くと、一本の絵筆を取って晶子の前に立った。

「いや、それは許して」

晶子は画家を縋るような目で見た。

「許しても何も、これが欲しくてここを濡らしているんだろう?」

画家は晶子の前に座ると、手にした絵筆で淫らに濡れた花弁をなぞった。

「ああっ」

晶子は上半身を仰け反らせた。
そして巧みに動く画家の筆先に合わせて、腰を前後左右に振り始めた。

「だめ、あうう、だめなの」

晶子は菊門まで見えんばかりに、激しく下半身を揺すった。
その動きに豊かな乳房も大きく波打ち、痛いほど勃った乳首が天を衝いている。

妻は老画家の性の奴隷となっていたのだ。
ごくありきたりなセックスしかしていない敬一が知る由もない妻がそこにいた。

(これが晶子か…)

敬一は妻の痴態を目の前にして、先ほどまでの意気込みは霧敢し、ただただ驚き呆れるばかりだった。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第十二章

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(十二)

裸娼婦を巡る口論の後、ますます晶子は家を空けることが目立つようになった。
リストラされた敬一が家庭での力を失っていくのと対照的に、晶子は働くことで絶対的は権力を手に入れた。

高松に重要な仕事を任されて忙しいからだといって、晶子は就寝時間以外の殆んどの時間を、画家の家で過ごすようになった。
朝、翔太を学校に送っていくと同時に家を出て、夜遅くまで高松の家から戻って来なかった。

そして翔太の学校が終わると塾のない日は高松の家に行き、夜まで自宅に戻らなくなっていた。
やはり晶子は翔太を手放さないつもりらしい。
翔太自身も晶子の影響か、時々失業した敬一に対して小馬鹿にした口を利くようになっていた。

ローンが残る我が家に、敬一は一人でいる時間が多くなった。
あいかわらず仕事は見つからない。

仕事を見つけようとする意欲も徐々に薄れ始めていた。
敬一が残り少ない退職金から生活費を渡さなくても、晶子と翔太は高松の家で困りもしない。
今や敬一の収入など、誰も当てにしていなかった。

「明日の個展の準備で、今夜徹夜になりそうだから、翔太と高松先生の家に泊るわ」

一方的に晶子はそう言うと電話を切った。
遅くなっても必ず帰宅していた晶子が、いよいよ外泊を宣言したのだ。

(もう我慢できない)

敬一は日本酒を呷って家を出ると、高松の屋敷に向かった。
梅雨明け間近の青々とした月が中天に輝き、夜道を冷たく照らしている。

(髪を引っ掴んででも連れ戻してやる)

ここまで侮辱されても、敬一は晶子と別れようとは思わなかった。
もしリストラされる前だったら、潔く離縁を言い渡していただろう。

しかし会社という社会との接点を失った敬一は、今や家族だけが心の支えだった。
もしその家族を失えば、敬一は砂を噛むような孤独に身を置くはめになるだろう。

敬一は月の光を頼りに、低いブロック塀を乗り越えて高松の家に潜入した。
広い敷地を覆う竹林が、外の住宅地から屋敷を完全に隔絶している。

中空から差し込む月光で青緑色に彩られた竹林の先に、洋館の黒々とした陰があった。
目を凝らすと、黒い陰の中にちらっと光が見える。

敬一は足を忍ばせて屋敷に近づいた。
大きな窓に引かれたカーテンの僅かな隙間から、部屋の明かりが漏れていた。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第十一章

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(十一)

敬一は絵を紙袋に戻すと、よろよろとその場に座り込んだ。

(晶子が高松にヌードを…)

足が震えているのがわかった。
そして胃に込み上げるような鈍痛が走る。
晶子は家政婦のパートだけではなく、絵のモデルとして高松に裸体を晒していたのだ。
信じられないことだった。

絵の中の晶子の顔は、結婚を決めた十年前のあの夜と変わらぬ美しさだった。
それはあの時感じた幸福感を思い出させた。

晶子をまだ愛している。
失いたくない。
高松などに渡したくない。

敬一は妻の絵を見つめながらそう思った。

その夜、敬一は晶子を問い詰めた。

「別に隠していたわけじゃないわ。先生の作品にして戴くのは名誉なことなの。あの絵だって何十万円って価値がつくのよ」

晶子は少しも悪びれるところもなく、平然と開き直った。

「バカッ!人妻でありながら、どこの世界に夫以外の男に裸を見せる女がいるんだ」

「仕方ないでしょ。高松先生が描きたいって言うんだから」

「ふざけるな。お前は貞淑という言葉を知らないのか。妻としての自覚がないのかっ!」

敬一は激怒してテーブルを叩いた。

「何よ。働かないで女房のヒモみたいな生活しているあなたに、説教なんかされたくないわ。女房子供を養えないくせに、夫、夫って偉そうな顏しないでよ」

晶子は敢然と敬一に反発した。
敬一は言葉に詰まった。
今の敬一には妻を従わせるだけの力もないのだ。

「…しかし…」

「しかしじゃないでしょ。あなたは本当に器量が小さいわね。私は芸術のために脱いだのよ。高名な画家に妻の美しさを描いて貰えるなんて、名誉なことだと思わないの?」

敬一は二の句が継げなかった。
黙りこくってしまった夫を後目に、晶子は勝ち誇ったように部屋を出ようとした。

「う、浮気はしていないだろうな?」

敬一の声は惨めにも裏返っていた。

「馬鹿ね。男ってそんなことしか考えないんだから。高松先生はもう六十歳よ。浮気なんかするわけないでしょう」

晶子は薉むような視線を残し、席を立った。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第十章

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(十)

晶子の生活が変わった。
朝、朝食をつくり翔太を学校へ送ると、その足で高松の家に向かう。

午前中、高松の家で朝食と昼食を用意して、空いた時間で広い家の掃除をする。
午後は家に戻って家事を済ませ、翔太の迎えに出かける。
夕方になると再び高松の家で夕食の支度をして、次は家の食事にとりかかるといった具合である。

土曜と日曜は基本的に休みで、高松が国内や海外へ製作に出かける時も休みが貰える。
しかし高松の家と自宅の家事を両方こなすのはなかなか大変なようだった。

「先生がわがままで疲れるわ。折角つくった食事でも、気にいらないと全く手をつけないんだから。頭に来ちゃう」

最初の頃、晶子はよく敬一を恨めしそうな顔で睨んで愚痴をこぼした。

「この間なんか、アトリエが散らかっていたから、親切心で掃除したら怒鳴られちゃったわ。ちょっとカンパスの位置を動かしただけなのに」

敬一は専ら妻の聞き役に回り、慰めるのが仕事になった。

「時々私に描きかけの絵を見せて、ヴァルールがどうのこうの、マチエールがどうのこうの、そんなの私にわかるわけないのに、くどくど説明するのよ。疲れちゃうわ」

「あ〜あ、働くのって大変ね。いつまで私にこんな仕事をさせる気なの?あなた、早くいい再就職先を見つけてよ」

そんなことをこぼしながらも、晶子は休むことなく画家の家へ通い、パート勤めを続けた。

一カ月もすると慣れてきたのか、晶子は敬一に文句を言わなくなった。
家事の他にも、高松の仕事の手伝いをするようになったのだという。
画材の用意と後かたづけ、モデルの世話等、家事以外に画家の助手として仕事を任されて、晶子も面白くなってきたのだろう。

個展の準備が忙しいと、午後や土日も高松の家へ出かけることが多くなった。
そして仕事がまだ見つからない敬一が、逆に家事や翔太の送り迎えをさせられるはめになった。

そんなある日、探し物があって押入れの中を調べていると、奥の方に高価なブランド品のバックや靴が積まれているのに敬一は気がついた。
勿論、敬一が買ってやったものではない。
しかも埃を被っていない最新モードである。

(一体これは…?)

リストラされてからというもの、敬一はブランド品を買えるような金を晶子に渡したことがなかった。
またパートの給料ではとても手が出せない代物である。

(男でもいるのか?)

敬一は顔から血の気が失せていくのを感じながら、押入れからブランド品を全て掻き出した。全部で十点もあった。更にブランド品の陰に隠れていた大きな紙袋も見つけた。
紙袋を開けると、中から額縁に入った一枚の絵が出てきた。

(こ、これは?)

押入れに隠されていた絵は裸婦像だった。 
薄い暖色の背景の中に、両腕を頭の後ろで組んだ女の上半身が、淡いパステルで写実的に描かれている。
こんもりと形の良い乳房とくびれたウエストの形に敬一は見覚えがあった。

(まさか…)

改めて絵のモデルの顔をじっくりと見た。妻の晶子だった。
絵の中の晶子は敬一の視線を避けるように、澄ました顔で斜め前を見ている。
そしてその絵の隅には、〈S.TAKAMATSU〉とサインが記されていた。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第九章

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(九)

晶子のパート勤めが始まった。
仕事先は近所に住む画家、高松省三の家だった。

高松省三とは敬一も何度か道で擦れ違ったことがある。
長髪を後ろに束ねて口髭を蓄えているが、背が低い上に腹が出ているので、とても芸術家には見えなかった。
また脂ぎった赤ら顏には、六十歳近いとは思えない精力的な雰囲気が漂っていた。

美術に疎い敬一は知らなかったが、晶子に聞いた話では、個展を中心に活躍している有名な洋画家らしい。
その言葉通り、敬一が目にした高松の家は、周囲の建売りの家とは明らかに違っていた。

住宅地から少し離れた広い敷地に、アトリエと住宅を兼ねた立派な洋館が、深い竹林に囲まれてひっそりと建っていた。
いくら便の悪い郊外とはいえ、相当な資産がなければあれだけの住宅は買えないだろうと敬一は羨んだ。

高松はその邸宅で、近所の主婦や子供を集めて絵を教えていた。
晶子のその教室の生徒の一人である。

晶子の話では、金儲けのために教室を開いているのではなく、孤独な作業の多い画家の気晴らしだという。
若い頃連れ合いを亡くし、後添いを貰わなかった寂しさの慰めでもあるらしい。

晶子は仕事の内容をこう語っていた。

「高松先生にあなたのリストラを話したら、助手をしてくれないかって誘われたのよ」

「画家の助手って?」

「高松先生は一人暮らしでしょ。今までは他人に任せられなくて、ご自分でいろいろやってらっしゃたそうなんだけど、歳を取るにつれて、炊事とか洗濯が辛くなってきたんですって。だから身の回りの世話をしてくれる人を探されていたの」

「住み込みか?」

「まさか。午前中と夕方だけのパートよ。これなら翔太にも寂しい思いをさせないでしょう?」

敬一は頷いた。
画家の助手と言われて驚いたが、実際は家政婦のようなものだろう。
近所での仕事なら自由がきくし、晶子にも勤まりそうだと思った。

「いいんじゃないかな」

「いいも悪いもないでしょう?あなたがしっかりしないから、私が働かなくてはならないのよ。本当に無責任な人ね」

晶子のキツイ言葉遣いが、再び敬一を不安にした。
今まで美貌を生かしたコンパニオンのアルバイトしか経験のない晶子が、地道なパートを続けることができるのだろうか。

晶子は敬一が口にしたそんな心配を、「先生は優しいから大丈夫」と意にも介さなかった。
金を払って習い事をする場合、先生も生徒に遠慮がある。
しかし優しい先生も雇主となれば別であろう。 

特に芸術家は気難しいに違いない。
わがままな晶子と気難しい画家では、すぐに喧嘩別れともなりかねないのではないか。
敬一は一株の不安を抱きながら、晶子の働く様子を見守ることにした。

つづく…

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『妻の娼婦像』  第八章

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(八)

晶子の愚痴はなおも続いている。

「昔約束してくれたことを覚えてる?結婚したら、晶子も働かたりしない。好きなことをして暮らせばいいって」

「それはおまえが仕事なんかしたくないと言うから…」

「でもそれが結婚の条件だったでしょう?もういいわ、今更愚痴を言っても始まらないし、あなたが頼りにならないのなら、翔太のために私がパートで働くわ」

敬一は妻の思わぬ提案に、その真意を探りかねた。

「働くって、おまえ…」

「仕方ないでしょ。どうせあなたに仕事が見つかっても、昔ほどの給料は貰えないんじゃないの?だったら翔太の大学を出るまで私が働かなきゃならないでしょう」

敬一は妻の方針転換をいぶかったが、しかしすぐにその疑念を打ち消した。
家のローンと教育費だけなら、再就職先を選り好みしなくても、質素に生活すればなんとか払っていけるはずだ。

だが、晶子の自由になる金はない。
おそらく晶子はそれが耐えられないのだろう。
だが、たとえそういうことであっても、働くことによって金を稼ぐことの厳しさを知れば、晶子の甘えも治るかもしれない。

「しかし仕事のあてはあるのか?」

敬一はふと心配になった。
晶子に地道なパートが勤まるのだろうか?
晶子の性格と美貌からすれば、スナックのホステスでもやりかねない。

「ええ、近所で私にもできそうな仕事を見つけてきたの。それより人の仕事を心配するぐらいなら自分の心配をしたら?」

晶子は冷たく言い放った。
そして無能は夫を詰る妻の愚痴はこの後も延々と続いた。

だが晶子が働く決心をしてくれたことに、敬一は感謝していた。
それは家計の助けになることは勿論、自分勝手な晶子が初めて家庭の危機を救おうとしているからだった。

(禍転じて福となすか)

もしリストラされなければ、敬一は晶子と結婚したことを一生後悔していたかもしれない。
だが家庭が危機に直面することで、晶子が変わろうとしている。

家庭を守る妻として、子を守る母として、その自覚を持ちつつあるのだ。
敬一のリストラも、長い目で見れば大きな収穫になるかもしれない。

敬一は晶子の口撃を浴びながら、幾分心の安らぎを予感していた。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第七章

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(七)

「ご近所や翔太の友達のお母さんにも、夫がリストラされたなんて、恥ずかしくて話もできなないのよ」

カウンターから立ち上がり、敬一の目の前に立った晶子が、苛立った口調で言う。

結婚してからも晶子の性格は変わらなかった。
専業主婦として必要最低限の家事はする。

しかしそれが終われば、後は夫に干渉されない自由な時間だった。
晶子は独身時代にも増して、勝手気儘に振る舞った。

晶子の趣味は多彩だった。
平日はピアノ、絵画、エアロビ、英会話などの教室に通い多忙を極め、休日も友人たちとテニスやゴルフ、スキーなどに出かけ、家にはほとんどいなかった。

晶子にとって趣味は、自分の才能を深める楽しみではなく、自分を飾るアクセサリーに他ならなかった。
さらには、深夜まで友達と赤坂や六本木を闊歩し、時には敬一を一人残して海外旅行へ出かけたりもした。

(結局、晶子にとって結婚は、自分の生活を保証する手段でしかなかったのだ)

敬一は失望した。
彼が想い描いていた家庭の団欒など絵空事だった。
晶子は妻というよりも、有料で家事とセックスをさせてくれる契約愛人に似ていた。

しかし敬一は遊びたい盛りの若い妻を娶ったあきらめと、己の包容力を疑われたくない一心で、晶子のわがままを許した。

失望とあきらめは隠しようがなかったが、それでも晶子を愛していたからこその行動だったかもしれない。

やがて晶子は妊娠した。
嫌がる晶子を拝み倒しての子づくりだった。

子供の出産で、晶子の性格が変わることを敬一は期待した。
予想に違わず、晶子は育児に追われて趣味と遊びを控えざるを得なかった。

晶子は日々の育児の辛さを敬一にあたったが、妻が家庭に居てくれる安らぎに比べれば、愚痴や八つ当たりなど敬一は苦にもならなかった。

だが敬一が担当する新製品に陰りが見え、その責任を取らされる形で将来の見えない新規事業部へ異動させられた頃、突然晶子は翔太の教育に力を入れ始めた。
きっかけは近所の主婦仲間の一人が、お受験のために子供を塾に入れたことだった。

瞬く間にお受験熱は広がった。
「翔太のため」と口ぐせのように言い、せっせと塾に通わせた。

しかし晶子のお受験の本当の理由は、夫の将来に見切りをつけたからだと敬一は直感した。
夫の出世が見込めないなら、晶子の将来を保証するのは子供をおいて他ならないと判断したのだろう。
翔太が成人するまでの収入の確保、晶子の夫への期待はそれだけになっていた。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第六章

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(六)

敬一は別れた年上の彼女を思い浮かべた。
思い遣りのある女だった。
どんなに辛いことがあっても、彼女と一緒にいると心が安らいだ。

敬一の理想の妻はそういう女だった。
しかしここで敬一が晶子の求婚をNOと言えば、今までの苦労が水の泡となる。

「あら、結婚は年齢でするものじゃないわ。私ね、子供の頃から甘やかされて育ったから、就職しても自立なんかできないと思うの。いつも近くに頼れて甘えられる人がいないと駄目みたい」

晶子が敬一に抱きつくと、バスローブの前がはだけた。
シルクのように白く滑らかな肌が現れた。
迫り出した豊かな乳房が、敬一の目の前で息づく。

想像していた通り、形の良い膨らみに小さな薄桃色の乳首が揺れている。
きゅっと括れたウエストと贅肉のない下腹部が、若鮎のような清冽さを醸しだしている。
そして柔らかな黒い翳りが、その奥に潜む快楽の園へと執着を掻き立てる。

「し、しかし、僕は君より十も年上のオジサンだよ」

敬一は掌中の獲物に食らいつきたい欲望を辛うじて抑えた。

晶子と半年付き合って、人生を託せる伴侶とはほど遠いと感じた。
若者特有の自己中心的なわがままさと、我慢や苦労を知らない傲慢さが時折、敬一の鼻についた。 
晶子にとって自分は、金のなる木と便利屋でしかないのか…腹立たしくなることもあった。

しかし念願の晶子の肢体を目の当たりにして、敬一の理性をぐらついた。

「ううん、若い人は嫌い。女を母親と勘違いして、甘えたり、守って貰おうとする男ばっかり、私は頼れる年上の男の人が好きなの」

晶子は敬一の頭を両手で抱えると、豊かな乳房に押しつけた。
生温かい胸の谷間は、底無し沼のようにどこまでも柔らかい。

甘ったるい晶子の肌の匂いが鼻孔に充満し、脳神経を麻痺させる。
敬一はいけないと思いながらも、固くそそり立った乳首を転がし、凝縮した乳暈を舌先でなぞっていた。

「あん」

晶子の体が敬一の腕の中で、小さく震えて弓形に反った。
白く蠢く魔性の肢体が、敬一を愛欲の世界に引き摺り込んでいく。

「ああ、いい」

晶子は敬一の愛撫に下半身を捩った。
ウエストからヒップにかけての緩やかな白い曲線が、男の征服欲を掻き立てる。

敬一は晶子をうつ伏せにした。
細身の裸身に小高く盛り上がったヒップが艶かしい。

真っ白な双丘を撫でると、金色の産毛がビロードのような感触を掌に伝える。
敬一はそっと指先を双丘の谷間に滑らせて、その奥に待つ熱い泉を捉えようとした。

「ねえ、私と結婚してくれるの?」

晶子は両脚をしっかりと閉じ、振り向いて潤んだ瞳で敬一を見た。
その欲情を促す妖しい輝きに、敬一の理性は跡形もなく消え去った。

(こんなに素晴らしい体は初めてだ。この肉体を独占できるのなら、結婚も悪くないかもしれない。女は男で変わるものだ。確かに今はわがまま放題の晶子だが、結婚すれば落ち着いて良妻に変わるかもしれない。 それに仕事より家庭を選ぶ古風な女なんて、今時滅多にお目にかかれないし…)

敬一は晶子の女肉をこの手にできれば、他に何もいらないと思った。

「結婚しよう」

「それならいいわ」

晶子はゆっくりと両脚を開いた。
花に導かれる蝶のように、敬一はふらふらと晶子の肢体に覆い被さった。

つづく…

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『妻の娼婦像』  第五章

『妻の娼婦像』
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(五)

三十歳当時、敬一は出世コースのトップを走っていた。
社運を賭けた新製品のマネージャーに若くして抜擢され、その前途は洋々たる希望に満ちていた。

全国規模の新製品発表会が企画され、当然敬一も運営の中核に参加していた。
その発表会のコンパニオンに応募してきたのが、現役の女子大生の晶子だった。

晶子は美しく、まだどこかあどけなさも残した顔立ちをしていた。
くりっとしたつぶらな瞳が、無邪気で清純な少女を思わせた。

反面、その肢体は、そのあどけなさからは想像できない豊満さを備えていた。
少女と大人の女の狭間に揺れる妖しさが、晶子の不思議な魅力を醸していた。

すぐに敬一は晶子の魅力の虜になった。 
当時、敬一は三つ年上の彼女が社内にいた。

彼女は姉さん女房タイプで、敬一が新入社員の頃から何かと面倒を見てくれていた。
器量は大して良くないが、献身的に尽くしてくれる彼女と敬一は結婚するつもりでいた。

しかし晶子との出会いが、敬一の身を固める決意を揺るがせた。
若く美しい晶子を掌中に収めたい。
心やさしい彼女を捨てさせるほど、晶子の美貌は敬一の血を騒がせた。

敬一は発表会が終わると晶子をデートに誘った。
幸い晶子には恋人がいなかった。
敬一は貯金をはたいて晶子の機嫌をとった。
彼女の好みの高価なブランド品やアクセサリー、贅沢な食事、送り迎えするために外車も買った。
若く気位の高い晶子を落とすには欠かせない投資だった。

それから半年後、横浜港を一望できる高台のホテルに晶子と初めて泊まった。

港に面した大きな窓をもつ豪窘な部屋で、敬一はベッドに横になって晶子がバスルームから戻って来るのを待った。 
満願成就の時を迎えて、敬一は少年のように胸をときめかせていた。

シャワーをあびてバスローブを一枚羽織っただけの晶子が、敬一の目の前に現れた。

「綺麗ね」

宝石をちりばめたような港の夜景が映る窓に、晶子は目を奪われていた。

肩まであるウェーブのかかった髪が部屋の明かりに艶めき、すっと長く伸びた真っ白い両脚が眩しい。
この半年で、晶子はさらに美しくなり、最初に会った頃のあどけなさも消え、その肢体に相応しい大人の女の顔になっていた。

晶子は敬一の視線を意識しながら、ゆっくりとベッドに潜り込んだ。
そして敬一の背中に両手を回して口唇を重ねてきた。

「ねえ、私と結婚してくれない?」

耳元で晶子が呟いた言葉に敬一は吃驚した。

「私、来年大学を卒業したら、あなたのお嫁さんになりたいの」

柳眉とバランスのとれた愛くるしい瞳が、じっと敬一の顔を射貫いている。

「けっ、結婚って、まだ若いのに?」

一方的な晶子からの求婚に、敬一は戸惑った。 
晶子は恋愛の対象としてはこの上ないが、結婚となると話は別である。
この先の長い人生を託す女を、容姿やスタイルだけで選ぶほど敬一は愚かではなかった。

つづく…

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
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