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二十三夜待ち 第七章


二十三夜待ち 第七章 

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天井一面に天女の絵が描かれていた。

寺や神社の天井画には、八方睨みの龍や飛天する天女があしらわれている。

だがこの月讀神社の天女は異質だった。

平安時代の貴族を想わせる大和絵の描き方ではなく、まるで西洋画の写実主義の如く、精密なデッサンを基に細部に亘るまで写真のように描かれていた。

しかも天女は全裸で宙を舞っていた。

うっとりした瞳と半開きの口唇が、神社に相応しくない艶めかしく官能的な表情をつくっている。

恍惚の天女。

子供を産んだ女なのだろうか、下腹部はむっちりとし豊饒に描かれている。

まるで実際のモデルを写生したように、顔の表情はおろか乳暈の粟立ち一つ一つや、淡く秘部を覆う細毛の一本一本まで、詳細かつ執念深く細密に描き込まれていた。

「・・これは子供に見せられないでしょ?」

唖然とする息子を尻目に、老婆は天井画に手を合わせた。

「若奥様、小鶴が帰って参りました」

老婆はそう言うと、遠い昔を思い出すかのように静かに目を閉じた。

続く…


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二十三夜待ち 第六章


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陽射しが照りつける夏の午後。

山の稜線から沸き立つ真っ白な入道雲が、群青の空と鮮やかな境界線を描いている。

けたたましく油蝉が鳴く細い山道を、場違いな一台の車が、路傍の雑草に薙ぎ倒しながら走って来た。

「この辺りでいいわい」

後部座席に乗る嗄れた声に、車を運転していた中年の男は車を慌てて停めた。

正面にゴルフ場を見渡せる小高い丘。

運転席から降りた男は、後部座席のドアを開けて乗っていた老婆の手を引いた。

「ふん、国土を荒らしてゴルフ場ばかり造りおって」

老婆はそう毒づくと、ゴルフ場を見下ろす丘に建つ古めかしい神社へ、杖をつきながら階段を登って行った。

小ぢんまりとしているが、格式の高さを思わせる社殿がどっしりと構えている。

「昔と変わっておらん」

そう呟いて社殿に二礼二拍手一礼する老婆に、後から階段を登って来た運転手が息を切らして問いかけた。

「母さん、これが月讀神社なのかい?」

どうやら運転手と思しき男は老婆の息子らしかった。

「そうだよ・・ここがあたしの生まれ育った集落があったところさ」

老婆はそう答えると、鍵がかかっていない社殿の戸を開けて中へ入った。

時折は近所の老人会でも掃除に来ているのか、社殿の中は小ぎれいに片づいていた。

老婆はふうっと静かに息を吐くと、ゆっくりとした動作で天井を見上げた。

続く…


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二十三夜待ち 第五章


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小鶴は声がする闇に眼を凝らした。

そこには月光を映した男と女の裸身があった。二人は立ったまま抱き合い、もどかしそうに肌と肌を擦り重ねている。

「もっと・・もっと強く抱き締めて・・」

大理石のように滑々して丸身を帯びた女の体が、筋肉質な男の腕の中でくねくねと何度もしなる。

その艶めかしさに小鶴は息を呑んだ。

おそらく月の光がなくとも、女の体は白磁器のように透き通っているのだろう。
その肌を僅かな青みを含む月光が照らすことで、ぞっとするほど凄絶な神秘を宿している。
豊かで肉づきのいい尻でさえ、天界から舞い降りた吉祥天のような神々しさを小鶴は感じた。

(はあ、はあ、はあ・・)

天女の尻が男の手で揉みしだかれる様に、小鶴は神々の営みを覗き見る恍惚感に酔い、未通女でありながら、自分の膨らまぬ乳房を撫でて息を荒げた。

女は立木に抱きかかえるように、体を屈めて男に尻を突き出した。

「ああ、欲しいの・・あなたが欲しくて我慢できない・・」

豊かな乳房を揺らして女が誘うと、男は背後から尻を鷲づかみにして腰を押し当てた。

「いいっ、清一君が入って来るっ!」

女が上半身をのけ反らせた刹那、青い月光が木の陰になっていたその顔を映し出した。

(あっ!)

小鶴は声を出しそうになって慌てて口許を塞いだ。

後ろに結った髪を下ろしてはいたが、その美貌は仄暗い闇でも瞬時に判別できた。

(わ、若奥様・・)

女はかつての女教師、今は小鶴が奉公する睦沢家の嫁、千代だった。 

続く…


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二十三夜待ち 第四章


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小鶴は薄の穂を力任せに投げ捨てた。

(どうせ不器量だもん・・若奥様ぐらいの器量があればあたしだって・・)

女の幸せが男で決まるなら、不器量で教育も碌に受けていない小鶴など、幸せを争う女の土俵にすら立てないではないか。
母親と同じように貧しい男と結婚し、紅の一つも引けず、一生泥だらけになって老いていくのだろうか。

ふと見上げると、明るい二十三夜の月が、惨めな小鶴の心を見透かすかのように輝いていた。

小鶴は汚れた着物の袖で涙を拭った。

ざわっ。
薄が広がる丘陵を風が渡った。
月の光を映す薄の穂がなびき、龍が如くうねる金波銀波が押し寄せて来る。

その海原に二つの黒い影が見えた。
まるで二頭の黒揚羽蝶のように、影は薄の海原をつかず離れず分け入って行く。
やがて二つの影は野原を抜け、雑木林の暗がりに消えて行った。

(猿や猪じゃないみたいだけど・・)

小鶴は神社から漏れる二十三夜待ちの歓声から離れ、何かにとり憑かれたように、影が紛れ込んだ雑木林へ向かって歩き出した。

恐怖心より好奇心が勝っていたのかもしれない。

背丈ほどある薄の野原を忍び足で抜けた小鶴は、月讀神社の向かいにある雑木林へ分け入った。

かさっ、かさっ。

落ち葉を踏む音に気を払いながら、小鶴は深閑とした木々が放つ霊気を吸い込んだ。
夜の雑木林には、透明な月光が木漏れ日のように射し込み、青白い光と漆黒の闇が、深い海の底にでもいるような錯覚を小鶴に与える。

小鶴ははっと身を木陰に隠した。

「ああ・・」

鈴の音にも似た微かな声が静寂に鳴った。

「好きだ・・離したくない・・」

息を荒げた男の小声が切なく途切れ途切れに聞こえてくる。

続く…


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二十三夜待ち 第三章


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そんな小鶴を見かねて、子守り奉公に雇ってくれたのは睦沢家に嫁いだ若奥様だった。

睦沢千代、三十三歳。
村長の跡取り息子の嫁、子守りする赤子の母親、そして小鶴がお世話になった尋常小学校の女先生でもあった。

千代は千葉県茂原町の出身で、女子師範学校を卒業した後、月海尋常小学校へ赴任してきた。
小鶴は就学前だったが、初めて千代を見た時の衝撃が今も忘れられない。

瓜実顔の整った容貌で、映画女優に負けない清楚な美貌が今も印象に残っている。
田舎では珍しい白いブラウスにスカート姿で溌剌颯爽と歩く姿に、集落の男達は農作業を忘れて誰もが振り返った。

だが所詮は教育も碌に受けていない男達である。
モダンな千代を眩しげに眺めるのが精一杯で、いざとなると話をするどころか、恐ろしくて視線すら合わせられない始末だった。

そんな高根の花だった千代を射止めたのが睦沢和馬だった。
和馬は睦沢家の総領で、将来は多くの小作を差配する村長を約束されていた。
今年三十五歳になる和馬だが、所謂お大尽の倅らしく、世間知らずでどこかぼんやりとした人物だった。

だが玉の輿である。
活発な千代だからこそ、和馬のように鷹揚な男が似合うのかもしれない。
二人は二歳になる一人娘に恵まれ、集落の誰もが羨む仲睦まじい夫婦に小鶴は見えた。

千代がどん底の生活を強いられていた小鶴を救ったのは、然もすれば窮屈で退屈な大家の嫁である身を紛らわすため、話し相手になる小鶴を傍に置こうとしたのかもしれない。
 
よく千代は小鶴の髪を撫でながら言う。

「小鶴は賢い娘だからきっと大切にしてくれる殿方が現れるわ」

南天に昇る澄んだ月がゆらゆらと歪んで見えた。

(嘘よ・・)

男と見紛う色黒の容貌と継ぎ接ぎだらけの着物ともんぺ。
誰が好んでこんなに貧しく醜い女を娶ろうとするだろう。
せいぜい振り向くのは、色欲に目が眩んだ父親のような碌でもない男しかいない。

続く…


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二十三夜待ち 第二章


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確かに眼前に広がる月景色は美しい。
だが月海は、これといった名産品も名所名跡もない貧しい寒村である。

(月餅なら美味しいけど、月の光じゃ腹の足しにもならないよ)
 
丘陵に囲まれた狭隘な田畑と山林しかない月海集落では、若者が働ける大きな工場や商店はおろか、村人の糊口をしのぐに十分な農地すら拓くことができない。

せいぜい農家の跡継ぎが食べて行けるのが精一杯で、次男三男は口減らしで東京や横浜へ出なければならなかった。

(子守りの仕事にしたって・・)
 
十五歳になる小鶴は、代々月海集落の長を勤める睦沢家で子守りとして奉公している。
だがいつまでも子守りが続けられるはずもない。
いつかは集落を出て他所の村へ嫁がされる日がやって来る。

薄の穂を手折って小鶴は簪のように髪に挿してみた。

(女なんて・・いくら勉強ができても、貧乏で器量が悪い娘は一生幸せになれない)
 
利発で賢い娘だと、村の古老達は小鶴を可愛がってくれた。
だが頭を撫でながら古老達は決まって最後にこう言った。

「この先苦労も多かろうが、へこたれてはいかんぞ」

家は小作で貧しく、父はだらしない男だった。
金もないのに博打好き、その上酒飲みでいつも母を怒鳴り散らしていた。
家計を助けるため、母は昼間の農作業に加えて夜は内職に精を出さざるを得なかった。

女の幸せは男次第だ。

何一つ化粧もせず、野良着姿で婢女のように仕える母に、小鶴は他力本願にも似た女の宿命を腹立たしく呪った。

続く…

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二十三夜待ち 第一章

  二十三夜待ち


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夜半、南東の空に下弦の月が昇る。

房総丘陵が夜空より暗く沈み、臥竜の如くうねりをつくり寝そべっている。

氷のように冷たく青い月光が、晩秋の澄んだ夜気を透過し、山の斜面に広がる薄の穂を仄白く浮かび上がらせる。

いつもならすでに寝静まっている山奥の集落だが、今宵ばかりは、女達が老若集って降り注ぐ月の光を愛でている。

二十三夜待ち。

旧暦の九月二十三日は、江戸の昔から続く月待ち講から、飲食を共にして月の出を待つ風習が日本中に根づいている。

ここ、房総半島の中程に位置する月海集落でも、深夜の月の出から夜が明けるまで、女達が村外れの月讀神社に集まって、一睡もせず長話するのが習いになっていた。

昭和十九年、戦局は厳しさを増していると聞く。

都市部では食料が逼迫し、増産のために中等学校以上の生徒五百万人が動員されたらしい。

まだ食料にゆとりがある農村では、決して贅沢とは言えぬが、古くからの娯楽が細々と続けられていた。

月讀神社の社殿からは、暗い世相故に尚更か、月見を楽しむ女達の笑い声が明るく響いていた。

月讀神社は月海集落に江戸時代からある神社である。

そもそも月海と言う地名は、付近にそびえる小高い月出山に因んでつけられた。

その山裾から昇る月が、低く連なる丘陵の稜線を照らすと、幾重にも重なる浜辺の白い波頭を想わせるからだと古老は言う。

高滝小鶴はフンと鼻で笑った。

続く…

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『妻の娼婦像』 最終章

『妻の娼婦像』
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(十四)

「晶子、私のものをくわえるんだ」

高松の命令に晶子は俯いたまま首を横に振った。

「私の言うことが聞けないのか?おまえと息子が暮らしていけるのは、誰のおかげなんだ?」

画家は着物を脱ぎ始めると、晶子の前に自分の肉茎を突き出した。

(ああ、晶子は家族のために画家の言いなりになっていたんだ。やめるんだ、晶子)

敬一は心の中で叫んだ。
まさか晶子が画家にこんな仕打ちを受けているとは思いもしなかった。
しかし眼前に繰り広げられる光景に、敬一は金縛りに遭ったように動けない。

晶子は椅子から下りると、おどおどした手つきで画家の着物を剥ぎ取った。
そしてでっぷりと醜く腹の出た画家の前に跪くと、瞳を閉じて無心に萎れた肉茎を口に含んだ。

「おう、力が漲ってくるわい」

赤黒い肉茎が次第に固さを増し、晶子の口に納まりきらないほど膨張した。
晶子は時折高松の顔をみながら、懸命に巨茎をくわえている。
高松は指で四角い枠をつくり、晶子の顔を捉えた。

「今度はこういう構図で描くのもいいな。女の欲情した表情は実に美しい。私もこの歳でこれほどいい女を手にできるとは思わなかった。亭主には悪いがな」

「嫌、あの人のことは言わないで」

晶子は高松の肉茎を口から離すと、フローリングの床に四つん這いになった。

「今日は後ろからして欲しいのか?」

晶子はヒップを高々と揚げ、左右に振って画家を誘った。
尻の谷間から続く性器が赤く充血し、発情期の獣の牝そのままだった。

(あ、晶子…)

敬一は思わず窓を叩こうとした。
しかし晶子の発した言葉にその手を止めた。

「ああ、もうお芝居は終わりにして、早く入れて頂戴」

それまでの悲痛な声とはうって変わって鋭い命令口調になった晶子に画家は慌てて、唾液でぬるぬると光る肉茎を手に、その白い尻を背後から抱きかかえた。

「あうっ、入ってくる」

晶子は四つん這いのまま背中を反らした。

「いいっ、先生。もっと激しく突いて。もっと激しく」

豊かな乳房を前後に揺らしながら、晶子はリズミカルに尻を高松の腹にぶつけた。
高松は晶子の激しさに防戦一方だ。

晶子は性欲を満たすために、画家の奴隷を演じていたに過ぎなかったのだ。
実は高松こそが晶子の性奴であったのだ。

美しく残酷で淫らな晶子。
敬一は、妻の痴態から目を逸らせなかった。

「気持ちいいっ。先生、もっと、もっとよ。いくらお金を持ってても、セックスが駄目だったら、私の愛人失格よ。うちの亭主みたいにリストラしちゃうから…ああん」

やがて敬一は痴宴の続く窓からよろよろと目を離した。
再び青い月の光に包まれた竹林が、敬一をそっと迎えてくれた。
その仄暗い空間に、敬一はぽつんと一人佇んだ。

(会社の次は家族か…)

敬一は家でもう一度、晶子の裸婦像を見たいと思った。

―閉幕―

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『妻の娼婦像』 第十三章

『妻の娼婦像』
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(十三)

「先生、やめて」

微かに女の声がした。

「だって恥ずかしい」

敬一はすぐに晶子の声だとわかった。

「芸術のためだ。我慢しなさい」

高松の声だ。何かを命じているようだ。

敬一は激しくなる鼓動を抑えながら、カーテンの隙間から部屋の中を覗いた。

(あっ!)

敬一はとっさに声を飲みこんだ。
部屋のアトリエだった。
スケッチ・ブックを持った画家の横顔が見える。
そしてその視線の先には、全裸で椅子に座る晶子がいた。

しかも決して絵画のモデルにはありえないようなポーズをとっていた。
椅子の上で長い両脚をM字型に開いているのだ。

秘所が明るい照明を浴びて剥き出しになっている。
うっすらと恥丘を覆う黒い陰の下、淫らに赤茶けた花弁が開き、鮮紅色の秘肉まで露に見える。
しかも晒された花弁は、しっとりと光沢を帯びていた。

「こんないやらしい格好、主人にも見せたことがないのに…」

晶子は腰を上下に細かく震わせた。
つっと一滴の透明な雫が、輝きながら糸を引いて床に落ちた。

「おいおい、そんなに動いたらデッサンできないじゃないか?」

画家はスケッチ・ブックを置くと、一本の絵筆を取って晶子の前に立った。

「いや、それは許して」

晶子は画家を縋るような目で見た。

「許しても何も、これが欲しくてここを濡らしているんだろう?」

画家は晶子の前に座ると、手にした絵筆で淫らに濡れた花弁をなぞった。

「ああっ」

晶子は上半身を仰け反らせた。
そして巧みに動く画家の筆先に合わせて、腰を前後左右に振り始めた。

「だめ、あうう、だめなの」

晶子は菊門まで見えんばかりに、激しく下半身を揺すった。
その動きに豊かな乳房も大きく波打ち、痛いほど勃った乳首が天を衝いている。

妻は老画家の性の奴隷となっていたのだ。
ごくありきたりなセックスしかしていない敬一が知る由もない妻がそこにいた。

(これが晶子か…)

敬一は妻の痴態を目の前にして、先ほどまでの意気込みは霧敢し、ただただ驚き呆れるばかりだった。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第十二章

『妻の娼婦像』
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(十二)

裸娼婦を巡る口論の後、ますます晶子は家を空けることが目立つようになった。
リストラされた敬一が家庭での力を失っていくのと対照的に、晶子は働くことで絶対的は権力を手に入れた。

高松に重要な仕事を任されて忙しいからだといって、晶子は就寝時間以外の殆んどの時間を、画家の家で過ごすようになった。
朝、翔太を学校に送っていくと同時に家を出て、夜遅くまで高松の家から戻って来なかった。

そして翔太の学校が終わると塾のない日は高松の家に行き、夜まで自宅に戻らなくなっていた。
やはり晶子は翔太を手放さないつもりらしい。
翔太自身も晶子の影響か、時々失業した敬一に対して小馬鹿にした口を利くようになっていた。

ローンが残る我が家に、敬一は一人でいる時間が多くなった。
あいかわらず仕事は見つからない。

仕事を見つけようとする意欲も徐々に薄れ始めていた。
敬一が残り少ない退職金から生活費を渡さなくても、晶子と翔太は高松の家で困りもしない。
今や敬一の収入など、誰も当てにしていなかった。

「明日の個展の準備で、今夜徹夜になりそうだから、翔太と高松先生の家に泊るわ」

一方的に晶子はそう言うと電話を切った。
遅くなっても必ず帰宅していた晶子が、いよいよ外泊を宣言したのだ。

(もう我慢できない)

敬一は日本酒を呷って家を出ると、高松の屋敷に向かった。
梅雨明け間近の青々とした月が中天に輝き、夜道を冷たく照らしている。

(髪を引っ掴んででも連れ戻してやる)

ここまで侮辱されても、敬一は晶子と別れようとは思わなかった。
もしリストラされる前だったら、潔く離縁を言い渡していただろう。

しかし会社という社会との接点を失った敬一は、今や家族だけが心の支えだった。
もしその家族を失えば、敬一は砂を噛むような孤独に身を置くはめになるだろう。

敬一は月の光を頼りに、低いブロック塀を乗り越えて高松の家に潜入した。
広い敷地を覆う竹林が、外の住宅地から屋敷を完全に隔絶している。

中空から差し込む月光で青緑色に彩られた竹林の先に、洋館の黒々とした陰があった。
目を凝らすと、黒い陰の中にちらっと光が見える。

敬一は足を忍ばせて屋敷に近づいた。
大きな窓に引かれたカーテンの僅かな隙間から、部屋の明かりが漏れていた。

つづく…

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご 挨 拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。                
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だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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